相続税の申告期限は、相続開始日の翌日から起算して10ヵ月以内です。その期限までに遺産分割が確定すれば問題ありませんが、期限までに遺産分割協議が整わないケースもあります。

 申告期限までに遺産分割が確定していない場合は、未分割として各相続人は「法定相続分」で取得したものとしていったん相続税申告を行わなければなりません(相法55条)。その後、遺産分割があり、分割により取得した財産に係る課税価格が当初申告した課税価格と異なるときは、修正申告又は更正の請求を行うことができます。この場合の更正の請求の期限は、遺産分割日の翌日から4ヵ月以内となります(相法32条)。この更正の請求は、特別の事情がある場合の更正の請求の特則と呼ばれるもので、下記のような相続分に変動を生じる事由があった場合に限り認められている制度です。
(1)申告時に未分割であった相続財産がその後分割されて課税価格が異なることとなった場合
(2)認知、相続人の廃除等によって相続人に移動が生じた場合
(3)遺留分減殺請求がなされた場合
(4)遺言書の発見等があった場合

 更正の請求の原則は、国税通則法第70条であり、法定申告期限から5年以内(※)に限り、税額等について更正の請求をすることができるとされています。
※平成23年12月1日以前に法定申告期限が到来する申告については、法定申告期限から1年以内です。

 今回の事例は、相続人間で遺産の取得に関して争いがあり、法定申告期限までに遺産分割ができず、いったん未分割として申告していました。法定申告期限から約3年後、裁判所での和解調停により遺産分割が確定しました。そこで当初申告の修正申告、更正の請求を行うことになりましたが、当初申告における土地の評価について誤りがあり、過大な評価額だったため、土地の評価額の減額も含めて更正の請求を行うことができるかという相談でした。なお、国税通則法による更正の請求期限は法定申告期限から1年以内のケースです。

法定申告期限までに遺産分割が確定しなかったため、未分割として法定相続分でいったん申告しました。遺産分割が確定したら4ヵ月以内に修正申告、更正の請求を行うことができるため、当初申告での土地の評価額について精査しないまま申告してしまいました。
 遺産分割が確定してから4ヵ月以内の更正の請求で当初申告における土地の評価額の減額も含めて請求できないでしょうか。
土地の評価誤りに基づく部分については、遺産分割が確定してから4ヵ月以内の更正の請求の対象にはなりません。
 
 東京地裁平成9年10月23日判決では、当初の相続税申告に存在した過誤を相続税法第32条(更正の請求の特則)によって更正を求めることはできないとされました。更正の請求の特則は所定事由に該当した場合に限って認められるものであり、当初申告に存在するとされる過誤の是正を求めることを目的とするものではないと判断し、未分割の遺産を分割した結果、既に確定した課税価格及び相続税額が過大になるか否かの判断に当って、算定の基礎となる遺産の価格は、当初申告により確定した価額を基礎とすべきであると判示しました。

 つまり、当初申告での土地の評価誤りに係る更正の請求は、更正の請求の特則による期限ではなく、国税通則法の原則による期限である法定申告期限から1年間となります。

 今回のケースでは、この原則による期限(1年)が既に経過しているため、土地の過大評価に関しては減額修正することはできません。

 遺産分割が確定せず未分割による当初申告を行う場合、遺産分割が確定した後に更正の請求ができるからといって安心してしまい、当初申告の評価方法を精査しないで申告してしまうことがあるかもしれません。しかし、更正の請求による評価方法の是正は、国税通則法の原則のよる更正の請求期間が適用されることに注意が必要です。