相談者の方が重度の病気で余命わずかということで、短期間で相続税対策を希望されています。

 相続財産は、預金・証券が8,000万円、不動産(自宅、80坪)8,000万円の合計1億6,000万円、借入などの負債はゼロ、法定相続人は配偶者、子2人です。

 自宅に対して小規模宅地の減額(80%減額)が適用できますが、まずは小規模宅地の減額が適用できなかったと仮定した場合、相続税は1,720万円になります。配偶者が全財産1億6,000万円を相続税すると一次相続の相続税1,720万円はゼロになりますが、二次相続の相続税がかなりかかるため、この選択肢はあり得ません。

 自宅に小規模宅地の減額(80%減額)を適用した場合の一次相続の相続税は570万円まで減らすことができます。

妻とは結婚して20年以上経つので、自宅を生前贈与し、贈与税の配偶者控除を使えば2,000万円までは贈与税がかからないので、私の相続税も相当減るのではないでしょうか。
まず生前贈与で注意しなければならないのが、相続税の生前贈与加算です。この制度は、亡くなった日からさかのぼって3年以内の贈与については、相続財産に加算し、相続税の課税対象になってしまうというものです。駆け込みの節税対策としての生前贈与を防止するためのものです。

 しかし、ご質問の贈与税の配偶者控除の適用財産は、たとえ亡くなった日からさかのぼって3年以内に贈与したものであっても相続税の生前贈与加算の対象にはならず、相続税が課税されることはありません。つまり、駆け込みで奥様に生前贈与しても確実に相続財産を減らすことができ、相続税の節税対策として有効であるということです。

 では、ご相談者の場合、どの程度相続税が節税できるのでしょうか。
 
 まずは配偶者に2,000万円の生前贈与を行わない場合です。
 (1)財産1億6,000万円、自宅に小規模宅地の減額が適用できない場合 → 相続税1,720万円
 (2)財産1億6,000万円、自宅に小規模宅地の減額が適用できる場合 → 相続税570万円

 次に配偶者に2,000万円の自宅敷地を生前贈与した場合です。贈与後の被相続人の相続財産は預金・証券8,000万円、自宅不動産6,000万円となります。
 (3)財産1億4,000万円、自宅に小規模宅地の減額が適用できない場合 → 相続税1,230万円
 (4)財産1億4,000万円、自宅に小規模宅地の減額が適用できる場合 → 相続税510万円

 配偶者に生前贈与したことによる相続税の節税効果は、
 ・小規模宅地の減額が適用できない場合 1,720万円 → 1,230万円 結果490万円減少
 ・小規模宅地の減額が適用できる場合 570万円 → 510万円 結果60万円減少
となります。

 つまり、小規模宅地の減額が適用できる場合は、そもそも自宅不動産の評価額が80%も減額されるため、これを配偶者に生前贈与し財産を減らしても相続税はほとんど減らないということになります。配偶者に不動産を贈与することで生じる登記費用、不動産取得税の負担を考えるとほとんど効果はありません。

 ただ、小規模宅地の減額が適用できない場合や、小規模宅地の減額は自宅であれば土地の330㎡までが対象ですので330㎡以上の自宅の土地を所有している場合は効果的です。

 今回の事例では、まずは自宅不動産に対して小規模宅地の減額(80%減額)が適用できるようにすること(できれば配偶者が相続するのではなく、同居親族が相続する方が二次相続を考慮するとベスト)が最優先です。これで相続税は1,720万円→570万円まで減らすことができます。

 次に預金・証券8,000万円を減らすことを検討します。孫等に対する教育資金の一括贈与の非課税を使うこと、一時払い終身保険の生命保険を活用する、などがいいでしょう。

 配偶者に自宅を贈与する方法は最後の選択肢と考えます。