現在取り組んでいる相続税申告で、被相続人が老人ホームに入居していて、自宅が空家の方に対して、どのように遺産を分ければ相続税の負担が軽減できるのか提案しました。

・相続人 子(x)持家あり、子(y)借家住まい
・子(x)、子(y)はともに被相続人と同居しておらず、生計を一にしていない
・相続財産の大半は不動産(z)(被相続人の自宅)
・遺産分割の方向性 子(x)と子(y)で等分
・不動産(z)は売却予定

 今回のケースで相続税が軽減される制度として「小規模宅地の減額」があります。
 被相続人の居住用宅地等であれば、土地の面積330㎡まで土地の相続税評価額が80%減額されます。例えば、土地の面積250㎡、路線価40万円であれば、土地の相続税評価額は40万円×250㎡=1億円となりますが、小規模宅地の減額の適用ができれば、相続税評価額は1億円×20%=2,000万円になり、相続税の納税額は格段に減らすことができます。

 今回の小規模宅地の減額は、被相続人が老人ホームに入居しており、自宅が空家(=被相続人が居住用として使っていない)であるという点がポイントになります。

被相続人が老人ホームに入居していた場合の小規模宅地の減額の適用要件を教えて下さい
 平成25年度税制改正で、平成26年1月1日以後に相続開始があった場合には、被相続人が老人ホームに入居していて、相続開始の直前において自宅が被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等については、下記の要件を満たすときは、その空家となっていた自宅について被相続人が居住の用に供していたものとすることができるようになりました。
(1)被相続人が要介護認定又は要支援認を受けていた場合は、被相続人が次の住居又は施設に入居又は入所していたこと
 ① 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム
 ② 介護老人保健施設
 ③ サービス付き高齢者向け住宅
(2)被相続人が障害支援区分の認定を受けていた場合は、被相続人が障害者支援施設などに入所又は入居していたこと
 ただし、被相続人の居住の用に供さなくなった後に自宅を事業の用又は被相続人等以外の者の居住の用とした場合には、この特例は適用できません。
 改正前は終身利用権付きの老人ホームに入居していた場合は特例の適用が受けられませんでしたが、改正後は可能となっています。
被相続人が老人ホームに入居した後、その自宅を第三者に賃貸した場合は、この特例の適用はできませんか
この特例は、被相続人の居住の用に供さなくなった後に自宅を事業の用又は被相続人等以外の者の居住の用とした場合には、適用できません。したがって、第三者に貸し付けた場合も適用できません。
被相続人が要介護認定または要支援認定を受けていたかどうかは、老人ホームに入居した時点で判定するのでしょうか
被相続人が要介護認定等を受けていたかどうかの判定時期は、老人ホーム等への入所時の現況でなく、相続開始直前の現況により判定することになります。

 また、平成27年度税制改正で、被相続人が要介護認定や要支援認定を受けていなくても、新しい介護保険制度における基本チェックリスト該当者であれば、この特例の対象となるよう拡大されました。基本チェックリスト該当者であれば、保険証にその旨が記載されます。

被相続人が要介護認定を受けて一定の老人ホームに入居しており、かつ、自宅を第三者に賃貸していなければ、小規模宅地の減額の適用はできますか
 本特例は、被相続人が要介護認定等を受けていて、一定の老人ホームに入居しており、自宅が空家となっていたときであっても、その自宅は被相続人の居住の用に供されていたものとして取扱うことができるという内容であり、小規模宅地の減額の適用に関しては、その自宅を相続する相続人が下記の要件を満たす必要があります。
(1)被相続人の配偶者・・・要件なし
(2)同居親族・・・相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
(3)非同居親族
①被相続人に配偶者がいないこと
②被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人である人がいないこと
③相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
④その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

 被相続人が老人ホームに入居して亡くなっても自宅の敷地に対して小規模宅地の減額の適用が無条件に可能であると誤解がありますが、これまでと同様に自宅を相続する相続人側の要件をクリアする必要があります。(1)被相続人の配偶者 「取得者ごとの要件」はありません。
(2)同居親族  相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
(3)非同居親族
①被相続人に配偶者がいないこと
②被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人である人がいないこと
③相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
④その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
(1)被相続人の配偶者 「取得者ごとの要件」はありません。
(2)同居親族  相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
(3)非同居親族
①被相続人に配偶者がいないこと
②被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人である人がいないこと
③相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
④その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

 被相続人が老人ホームに入居していて亡くなっても無条件に小規模宅地の減額が適用できるようになったと誤解されている方がいらっしゃいますが、自宅を相続する相続人の要件をクリアする必要があります。実務上、小規模宅地の減額が適用できないケースが数多くあり、その大半が、被相続人が一人暮らしで同居している親族がいない、非同居親族が持家を持っているという場合です。

 今回の相続税申告では、被相続人に配偶者および同居親族がいないため、小規模宅地の減額の適用を受けるには上記(3)非同居親族の要件を満たすか必要があります。
 子(x)は持家を持っているため、子(x)が自宅を相続しても小規模宅地の減額の適用はできませんが、子(y)は持家がないため、子(y)が自宅を相続すれば小規模宅地の減額を適用することができます。さららに自宅を売却する予定ですが、非同居親族の要件では、非同居親族はその自宅に住む必要はなく、また申告期限まで所有すればいいだけですので、申告期限後売却しても問題ありません。

 相続財産の大半を子(y)が取得しますので、等分の分割となるよう「代償金」を子(y)は子(x)に支払います。支払時期は自宅を売却した後にしておけば金銭の問題も解決できます。